otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

風を送ってもらって

otobokecat2006-10-25

林は日々冬に向かって支度をはじめている。

空は澄み始め、風も透明になり、
あたりがあたかも休むまえに身を清めていくかのような、
そんな今日この頃である。

あんなににぎやかだった虫たちもだいぶ姿を隠してしまった。
夜窓を開けてももう何も飛び込んでこない。

カレンダーがめくられる頃には、そろそろ落葉松から黄金の針が降り始め、
枝が裸になったときにはもうなんにも思い残すことのなくなった高原は、
はるかな春まで眠りにつくことになるが、その日ももうそうは遠くない。

およそ一年前、昨年10月20日の初冠雪の日、山に向かって地鎮祭をした。

一時は水脈を絶って、地面から水が溢れ出して恐れおののいいたりもしたけれども、
家は無事に立ち上がり、だいぶ本が持ち込まれてきた。
ようやく静かな季節を迎えようとしている。
日頃信心深くない私が山を仰いで素直に有難く思う。

村の本屋の扉が開いて、二ヶ月。
ストーブの試し焚きのような危うい日々だが、そこへ恩師は風を送ってくれた。

上昇気流が起きなければ、
どんな立派なストーブだって、家を温めることはできない。
煙が逆流してしまっては、点けない方がましだということになる。

林に白い毛布がかかっても、負けないくらいの暖かな部屋であるために、
この冬はしっかりストーブの火の番をしようと思うのだ。

彷書月刊 11月号』掲載御礼


■高原の冬2005