otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

柳に吹く風は

石井桃子さんの本棚■
たのしい川べ第44刷改版 ヒキガエルの冒険 [ ケネス・グレーアム ] 「たのしい川べ」−ヒキガエルの冒険
ケネス・グレーアム作 E・H・シェパード挿絵 石井桃子訳 岩波書店 1963年に初版 2003年42刷

川べりでボーっとしているモグラが、川ねずみの穴をみつける。そして覗き込んでいるとなかから川ねずみが現れ、誘われてボートで小遠足に出かけるのだ、お弁当を持って。そのお弁当がすごい、コールドチキンにコールド・タンに、ビール、レモネードまで!!(何、モグラがチキンを食べる??と思ってはいけません。)この導入部によってあっという間に引き込まれ、読者もまた川べの小さな住人となってしまっているのだ。川岸のない川しか身の回りにないのが現実だが。そもそもモグラが白昼で歩けるのか??なんてことはどうでもいい。
決してハッピーな幼年時代ではなかったグレーアムにとって、川べこそが現実から遠ざかることのできるファンタジーランドだったのだろう。
この物語は、机の上で生まれたのではなく、息子への語りを母体としていて、グレーアムの書く意思というより周辺の人たちによって見出されて、働きかえられてようやく結晶したもので、いわばストーリーテーリングのお手本といったお話である。(外国の児童文学にはこういういきさつでできた本が多い。「あおくんときいろちゃん」など。)
クマのプーさん』でお馴染みのシェパードの挿絵がまたいい。グレーアムの故郷を丹念に取材して書かれたものだという。 
そしてこの物語の原題は“The Wind in the Willows”つまり「柳屋」とはやなぎつながり…なのであるからして。
ちょっとお疲れ気味の大人にこそ、読んでもらいたい一冊だ。川面を渡ってきた風〜〜が体を吹き抜けていくだろう。

《O村古本屋日記》昼近く、本棚二本と、木の椅子と縛った本を満載して、オデッセイ号が追分に向けて出発した。年度末の精算業務もあり、今週は遅い出立。群馬のある児童館から依頼された本を集める仕事をいただいたが、今週末にその本たちの第一陣が貰われて行くことに。子ども達に気に入ってもらえると良いけれど。まとまった儲けは有難いが、それだけでなく先方とのやり取りの中から得るものは多い。こういった仕事も今後注力していきたい。