otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

内的世界へ

 自然観察の会の引率のボランティアがあったが、家人の体調が芳しくなくて、一日留守にはできないので、頼まれている印刷物を届けに、JR高尾駅まで往復することに。片道40分ほどかかるが、下り線なのでおそらく座れるので、車中で読む本を持った。意外にも郊外の学校も増えてきているせいか、途中まで座れなかったけれど、ようやく座ったら、まあ座席の暖かいを通り越して暑いこと!ウォームビズはどこへやら…。

 やおら、文庫本を取り出したるは、久しぶりに『雉子日記』(講談社文芸文庫堀辰雄のエッセイ集である。子供を襲う残忍な事件や、あまたの建築不正疑惑が世間を騒がせている昨今、戦争の足音を聞きながらもなお静かな文を書きとおした堀辰雄の世界へ、今こそ逃避したいと思ったのだった。冒頭の「木の十字架」によって、難なく私は車中にいることを忘れ、終点までうたた寝することもなかった。

 海外に出かけるチャンスこそなかったが、リルケの詩や、モオリアックの小説、レンブラントの絵画、ショパンのピアノといったいわゆる西欧文化を好んだ堀辰雄が、世界を相手に戦争をするちっぽけな島国のなかで、何もすることができなかった無念さ、むしろその日常を超越した「無」もしくは「静」の思想を持って対処することによって、それを乗り越えようとしたのではないか。
 没後50年を経て、まったくさびないどころか、さらにいぶし銀のごとき文章だと思う。

 おそらく今頃、浅間山は雪雲に覆われているころだろう。昨日は東京にも風花が舞ったぐらいだから。私も何も雑事の聞こえない冬木立の林のなかへ出かけたくなってきた。