otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

花の季節に

 ことしの寒さは厳しかったが、その寒さに震えながらも、杉並区の公園で2月の上旬に蝋梅が咲いているのに驚いたものだが、あれから一ヶ月、遅れ気味とはいえ、あたりは春に向かって着実に動き出している。
 それがここに来て急に急ぎ足になっているような気配。それでいて、彼岸前では気温はまだまだ不安定、今日は東京でも小雪も舞った。こういう日は、花粉症のマスクも防寒に役立つ。
 東京では、寒いと言っても真冬でも、屋外で花が絶えることは無いので、花への憧憬が少々鈍い。これが信州へ行くと、12月から2月は厳寒で、花など屋外では滅多にお目にかかれない。だから、春に花が咲き始めると本当にワクワクしてくるのだが…。

 あっという間に梅が満開になった。夜の梅と言うお菓子(羊羹)が有るけれど、それがどういった意味があるか知らないでいたが、数年前、勤務先の大学を辞して急ぎ足で人気の無い住宅街を家路に向かって歩いていたとき、あまりのかぐわしい香りに思わず足を止め、あたりを探してしまった。その香りの先には、朝通勤の時にはまったくその香りには気がつかなかった白梅が咲きほころんでいた。闇の中の白い香りに、なんとなく色気を感じた。梅は夜なのだ。

 ミモザ黄色いぼんぼりがいっせいに開いている。濃い目の黄色い花が、銀色がかった渋めの葉の色に映えている。とっても愛らしい花だが、ちょっと日本の早春には合わない。

 ひっそりと乳白色の馬酔木の花が咲き始めている。この花を見るたびに、学生時代に訪れた陽だまりの浄瑠璃寺を思い出す。堀辰雄に傾倒していた私は、『浄瑠璃寺の春』を読んで、浄瑠璃寺には是非行きたいと思っていたのだった。日向のまぶしさと寺の中の暗さのコントラストをなぜかとても覚えている。そこで馬酔木に出会えたかどうかは定かではない。

 わたしにとって春の花といえば、野山の枯れ木の間にほっこり咲くこぶしの花がもっとも象徴的で、とても生の息吹を感じる。

 歳とともに、愛でる花も移り変わってきたように思う。