otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

そのひとこと

otobokecat2006-06-08

■今日の写真:文字力!と言われると、思わず下を向いてしまう…が、UGCで本を手にして、扉の林さんの柴犬のイラストの暖かいまなざしに、やはり買ってしまった。
 【このイラストは蟲文庫さんの日記に写真がある】

■花はマルバストルム:アオイ科宿根草。我が家に来て二年目。花の色と同じくアプリコットの微かな香りがすることにきがつかず、訪問客に教えられ。


 アンダーグランド・ブック・カフェの最終日(6/6)に、古本屋のない町に住む母を伴って訪れた。JR;御茶ノ水の聖橋口で待ち合わせ、古書会館に向けて歩いていると、教会らしい建物の脇を通った。鉄柵の向こうに、慈悲深いお顔の頭像が花壇のなかにしつらえてあるのに目が留まり、思わず門から入ってみる―なんともいいお顔だ。

 ふと脇を見ると、青銅のドームの写真がある。脇の建物の壁と装飾が似ていたけれど、その建物にはドームはない。あたりを見回しているうちに、ここが裏庭で、これは表に回らなくては見られないということに気づく。建物の脇に表に通じているだろう小路もある。どうする?行ってみる?と躊躇していると、そこへ建物から出てきた聖職者らしき外国の方が、にこやかなお顔で「どうぞ」と行く手を示してくださった。

 軽く会釈して、我々は中へ遠慮なくずんずん進んでいった。(一人だったらこうはいかない。)小道を抜けると、教会の正面入り口に出た。有った!これこそがあの(通称)ニコライ堂だ。御茶ノ水に有ることは知っていたが、てっきりJRの反対側だと思い込んでいた。母も知らなかった。あたりに高層ビルの迫るなかで、ここだけが時の止まったような静かな教会のたたずまいを二人で満喫した。
庭の手入れをする方がいるのみだった。

 UGCも平日の午前中ということで静かだった。八朔さんのスタンプで作った千代紙と、林哲夫『文字力』(サイン入り)と、文庫本『日本の詩歌17』(中公文庫 昭和50)を買った。【堀口大学西条八十・村山槐多・尾崎喜八

 母も買い物をしたらしく二人でがらんとしたロビーで珈琲をいただいた。二階の蔵書票展へ行くと、ちょうど和本つくりが盛況で、10数名が熱心に取り組んで田中栞さんがお一人で奮闘していた。入り口で午後の講習の準備中の八朔(片岡)さんに会う。ここもてっきり静かかと思ったのだが、満員御礼で残念ながら蔵書票はじっくりとは見られなかった。

 古書会館を出て駅に戻る途中、さっきはまだしまっていた『かげろう文庫』が開いていて、白熱灯の温かみのある灯りに、ついフラット入店する。
 奥まで進むと、ショーケースの中には福永武彦の『玩草亭百花譜』の原稿であるスケッチ帖が展示してあるではないか。意外にもスケッチ帖ははがき大よりもむしろ小さいぐらいのメモ帳といった感じで、そこに実に素晴しい絵が紙一杯に描かれていた。原画の花の本の頁が二葉展示してあったが、やはり原画の色が格段に素晴しい。この本は文庫版にもなっているが、本来そちらの方が、原稿には近いわけだったのだ。

 福永武彦氏の追分の家を祖母とお尋ねしたとき、画材があたりにおいてあったように記憶しているが、もっと立派な大きなスケッチ帖だったように思う。もっともスケッチ帖は全20冊もあるということなので、私の記憶に有るものも実在するのかもしれないが、あれから30数年ほどの月日がたった今、現物を目の当たりにして、私の記憶など風前の灯である。それにしても鮮やかな絵は、年月が経ったことをまったく感じさせないみずみずしさをたもっていたのには驚いた。
 
 
 母と来たからこその出会いがいくつもあった御茶ノ水散歩だった。