otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

朝日が差し込んで

otobokecat2006-12-11

  • 『いちばん美しいクモの巣』  アーシュラ・K. ル=グウィン (著), 長田 弘 (翻訳), ジェイムズ ブランスマン(絵) みすず書房

お客さんとの会話の中から多くのものを学ぶことができるということが、店を開けたことによる収穫のひとつ。おそらくこの本との出逢いもまた。そしてまた絵本というジャンルが決して子ども向きだけではないということも再確認した。大人も楽しめる、否大人がより楽しめる絵本かもしれない。

山道を散歩をしていて、あるいは山荘を構えていると、しばしばクモの巣と格闘することになる。私は山道を歩くときは小枝を振り回しながら歩く。なぜならクモの巣に顔を突っ込んだ経験がたびたびあって、実に不快なので。また同時に美しいクモの巣にであって目を見張る経験もまた都会ではなかなかないが、夜露の飾りをつけた立派なクモの巣を見つけた時などは、一気にクモの印象はプラスサイドに転じる。クモにとってはせっかくの仕掛けがばればれになって、さぞかし怒っていることだろうが。
追分で店を開けることで知り合った詩人のCさんは、『ゲド戦記』で知れ渡っているこの作者の書いたほかの作品に興味を持っておられて、私は彼女に導かれるようにこの絵本に辿りついた。早速この本を彼女に紹介すると、見入っていたCさんは、やおら私にクモとの因縁を話してくれた。(こういった本を介した会話ができるのは本屋の特権だ。)
Cさんは、生き物の中で唯一クモが大の苦手だったが、普通だったらこういう場合避けるわけだが、彼女にとってはとにかく気になる存在だったらしくクモの研究と観察をしたという。「何で私はこんなにもこのクモが嫌いなんだろう」というのがきっかけで徹底的に調べ始めるということ自体、好奇心が旺盛で実にユニーク。蜘蛛がどうやって巣を作っていくかをずーっと見ていたときもあるそうだ。そしていつの間にか苦手なクモに魅せられていたというから面白い。そして結論は、地球上のものではなく「クモは宇宙人」だと確信したと。
私はこの一言で、わりと後味の悪い奇妙な話に興味を示す彼女の趣向に合点がいったのだった。

蜂の巣模様と鉄線の入っている東側の窓に、今の季節だけ真横から朝日が差し込んでくるのをぼーっと見つめながら、彼女の「おはなし」を思い出して、また彼女から話を引き出す素を見つけなくてはと思うのだった。