otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

向日葵のような

otobokecat2006-12-26

追分は寒冷地なので、たとえば東京で見られるように、真冬でもプランターにパンジーが咲いているなんてことはまずない。下手をすると部屋の中でも物が凍るため、凍らないために冷蔵庫に入れるといったことも発生する。そういった白黒のはっきりした土地なので、屋外の植物は自然の姿がいちばん。苗を植えるというショートカットの作業は余りここには相応しくないので、種から発芽して、あるいは株のまま越冬してということになる。私も家を建てた当初は嬉しくていろいろやってみたが、自然淘汰されて、今残っているものはこの土地にあったものということになる。
草物では春先のカタクリや、サクラソウ、芝桜、レモンバームあたりが適応している。木では、ライラックドウダンツツジレンギョウ、ブルーベリー、ツツジが生き延びているが、レンギョウ以外はさっぱり花がつかない。
そんな中、ときおり種まきをしていない細い向日葵がひょろひょろ生えてくることが有る。

先の日曜日、朝出かける支度をしていたら、ラジオ(FM軽井沢)から、堀多恵子さんの優しい声が聞こえてきて、思わず仕事の手をとめて、居間に座ってラジオに耳を傾けた。

そこからちょうどベランダに吊るした鳥の餌箱が見える。梢が銀色に光る林を見ながら、観光協会長荒井氏の相槌で堀多恵子さんのお話を聞くことができるのは、まさに至福の時間。
もっぱら話題は追分のことになり、「油屋旅館」の火事の話に。亀田屋のきくよおばあさんが、堀多恵子さんの地元の講演会で、その火事で立原道造を救った梯子が亀田屋のものだということを客席から発言したという話しなど。私にとっては話題の隅々までが手にとるようなことばかりで、実にいい時間だった。

時折、餌箱に野鳥が飛んできては、ついばんでは飛び去っていく。昨日向日葵の種を入れたのだ。(ひさしく空っぽだったのに良く見ているなあ。)
例によってカラ族のメンバーが次々とやってきた。シジュウウカラ、コガラ、ヤマガラゴジュウカラ、それからきつつきの仲間のコゲラも。でもコゲラは一回り大きいのでえさ箱の小さな止まり木にとまれなくて、下に落ちているのをつついていてちょっと可哀相だった。とにかく彼らは本当にひまわりの種が好き。おそらくこの種のうちのいくつかが発芽して、ひよひよの向日葵が庭に咲くのだが、花が着くのは奇跡に近い。

向日葵といえば、向日葵のような少女という表現は堀辰雄の小説にもでてくるが、夫の没後50年もの間、こうやってラジオやエッセイや講演会などで堀辰雄のことを語りついでいる多恵子さんこそ、ほんとうに一輪の向日葵のような存在だと思う。堀辰雄のことのみならず、当時の軽井沢や堀辰雄の周りに居た文筆家【川端康成中村真一郎など】のお話は本当に興味深く、多恵子さんを軽井沢の宝だと思っている人は本当に多いが私も同感である。

一切の生き物を受け付けないような厳冬期とはいえ、風のない日は建物の南側は陽だまりになってとても暖かい。追分はそもそも浅間の南麓にあるので。


何もないといろいろなことがみえてくるものだ・・・。
巷の喧騒のかけらも感じられない銀色の林を眺めながら、そんなことを思ったりした。

■カラ族の中で、ヤマガラ君だけがカメラに辛うじてとらえられるのはなぜだろう?