otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

野の花を

otobokecat2008-08-21

当店が開店しつつあった二年前の秋に、『諸君』の「古本蟲がゆく」の取材が入った。池谷伊佐夫さんといえば、『東京古書店グラフティ』『三都古書店グラフティ』『神保町の蟲』などの古本本の作者。実はこれらの本は我々の古書店計画の際にも大いに参考にさせていただいた本であり、いわばバイブルのような存在だった。その池谷さんに来ていただけるということは夢のような話。私が作ったA5版の一枚の緑色のチラシがきっかけで、池谷さんが当店に興味を持ってくださったということであった。そのチラシはアンダーグラウンド・ブック・カフェの片岡さんのはんこコーナーの隅に置かせていただいたのだった。なんというご縁だろう。

取材にこられた際は、まだできたてのほやほやで、店の奥のブックカフェの部分は準備中の状況であった。イラストを書く前にまず池谷さんは我々に問診をされて、完成図にはちゃんと営業中のブック・カフェも描き出してくださった。正直のところ、これじゃ無理ですねと言われるかもしれないとびくびくしていたので、雑誌に本当に掲載された時は感動してしまった。

構図を決められた後は、一時間半ぐらいかけて、店の中や外から丹念にスケッチをして、さらに何処の書架になにがはいっているかというメモを絵の横にびっしりとつけ、講談社文藝文庫が結構ありますねと、冊数まできっちり、しかも二回勘定しておられた。92冊でした。
本以外のものにも興味を示されて、丹念に書き込んでおられたが、決して長時間取り組んでおられたのではなかった。詳細なイラストが、あの短時間の取材の中でできたとは、とても信じられなかった。

スケッチが終わったところで、やおらお買い物を始められ、同行の編集者のMさんとともに、沢山お買い上げいただき、その本もまたイラストとなって記事に登場したのだった。さらにご近所の骨董や「時幻」さんにも出かけて、根付を購入、それもまた「今回の収穫」に。恐るべき取材力である。天井裏から覗いたような鳥瞰図は見事で、池谷さんは複眼?をお持ちか。
この本が我々にとって後生大事な存在となるもう一つの理由には、軽井沢駅前にあった名物古書店「りんどう文庫」とともに記事に載せていただいたということ、そしてそれが最初で最後であったということだ。(その年末をもって小諸に移転された。)
古本屋を名乗るには未熟すぎた当店も、魔窟(失礼)「りんどう文庫」サンのおかげで、なんとか日の目を見ることができた。さらにこうして立派な一冊の本のなかに混ぜていただいたことは、本当に恐れ多く・・・これはおそらく先行き不安な新米への古本蟲池谷さんのはなむけであったのだろう。
大輪の花はとても無理だが、ささやかな野の花は咲かせたい・・・。



池谷伊佐夫『古本蟲がゆく』
 ー神保町からチャリング・クロス街まで
文藝春秋 2008