otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

レクイエムの似合う日

天気にやられてしまった魔の金曜日であった。
雨が降ったということは、つまり暖かかったということで、温度計の針も確かにいつもより高いところにあった。北向きの窓から、我が家の煙突から出たばかりの煙が、目前の林に低くたなびいているのが見えたーつまり今日は南風が吹いているということなのだ。でも「暖」という字はどこにも見当たらない一日だった。陽光がささないとお手上げだが、晴天率の高い軽井沢では、こういった日は珍しいので、まあ我慢するとしよう。来る日も来る日も、雲が垂れ込めた日だったら、きっと参ってしまうだろうなと思う。日本海の冬はそういった意味では厳しいだろう。
今日は遅番なので、雨の中を歩いて店へ行く。地面に敷き詰められた落ち葉の上に雨が落ち、ガザガザ・・・と騒々しい。午前中は雷までも鳴り響き、山はされるがままだ。村には人の気配がない。この天気のおかげで、今日の店は超閑散。袋にぺったんぺったんはんこを押したり、本の手入れをしたりと、こういう日にすることは山ほどある。
いつの日にか、お客様を待ちながらカウンターで本なんぞ捲り、ドアが開いたら眼鏡の隙間から上目遣いに入り口をみやったりしたいものだけれど。

店を閉めてから夜道を山へ歩いて戻る。雨は上がり、霧がまいてきてあたりはかなり幻想的に。街灯や家の灯りが霧に拡散してボーっと明るい。ふと見上げると木立の枝先にはうっすらと三日月がのぞいていた。

■晩秋あたりからこの二冊にずっと引きずられていた。
辻村伊助は登山家であり、国内外の数々の山に登ったが、山の雪崩には巻き込まれることはなかった。しかし関東大震災の影響で箱根の自邸で家族みんなで泥流に飲み込まれて落命している。堀辰雄がこの本のことを『雉子日記』に書いているくだりがある。この本を手許に置いていたのはリルケのことを調べたいからであっただろうが、辻村伊助の悲劇的な最後のこともおそらく堀辰雄に何らかの思いを抱かせたに違いない。
『雉子日記』堀辰雄講談社文芸文庫
『スウィス日記』辻村伊助(平凡社ライブラリー