otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

春の足音がぽたぽたと

otobokecat2009-02-28


褐色の地面が覗いたと思うと、新たな白いベールがかかるが、今回はふかふかで日中の気温が零度より上回り融けるのも早い。雪掻きをしないと凍って手がつけられなくなるといった緊迫感が薄らいでいる。夜間でも雪の融ける水音が聞こえたりすると、春は近くまできているなと思う。軒のツララも長くない。
真冬の追分宿は眠ったような状態となる。堀辰雄記念館と郷土資料館は町立なのでずっと開いていると思うが、土産物屋の寿美や工芸店は12月半ばより三月下旬まで閉まっている。骨董の「幻限」さん」は昨年11月で店を閉めた。その後に入るといわれている雑貨店は三月より借りるといっていたが、どうだろう。タバコ・文具・切手を扱っている萬やである亀田屋は不定休だが、冬は閉まりがち。食べ物屋である「ごんざ」と「ささくら」は年中営業だが、二月中旬に10日ほど冬休みを取り終わり、ここからは徐々に平常ペースへ。当店は1月より週末しか開けていないが、いよいよ明日から三月。木〜日+祝日開店の通常ペースに何時から入ろうかというところ。
眠ってばかりはいられない、徐々に来るべきシーズンに向けて準備をしていかなくては。鳥のえさ台に来る鳥たちの賑やかさを見るにつけ、春遠からじの感は強い。つるしてある餌箱をさっさと空にして、家に近い臨時の餌台にもずうずうしく押しかけている。今まで近寄らなかったヒヨドリ、アトリまでベランダに入り込む様になってきた。追分食堂大盛況だ。

まずは4月から6月あたりのイベントのスケジュールはだいぶ煮詰まってきた。
それから今日、春に配っている「手拭い」を発注した。毎年寝覚めは春のゴールデンウイークということで、2000円以上お買い上げの方に差し上げているものだ。尾崎澄子さん考案の暖簾の柄「ふるほん」より、一年目は暖簾と同じ煙草色の「ん」、二年目は雨上がりの浅間山の江戸紫で「ほ」ときて、三年目の今年は樅の山藍摺(青緑色)の「る」となった。石の上にも三年目という三枚目の今年、幸い少しは常連のお客様も着いてきたこともあり、早めに手配して4月はじめから差し上げられればと思っている。乞うご期待。(申し訳ありません、数に限りがあります。)
実は昨年は連休初めぎりぎりの完成で、お渡しできず次回いらしたときに声をかけてくださいねとお詫びしたものの、結局お申し出のなかった数本がある。万が一このブログを見ておられたら、どうか遠慮なく申し出てください。お取り置きしてありますので。
文庫になった『高原好日』(加藤周一 ちくま文庫)を読む。信濃毎日に連載され、2004年に出版された随筆集の文庫化だ。高原すなわち浅間山麓、とりわけ信濃追分での交遊録である。単行本ではすでに読んでいるが、加藤氏が亡くなられてから今回初めて読んだ。
「哀悼」の文字が帯にあり2009年2月に出ているので、亡くなられたから文庫が出たのかと思ったら、成田龍一氏の解説は2008年11月3日に書かれ、その一ヵ月後の12月5日に加藤氏が亡くなり、急遽2009年1月追記が足されて今回の発刊となったのだった。加藤氏に当店の暖簾をくぐって下さる日がいつか来るのではと密やかに期待していたが、怖いもの知らずにもほどがあると、この本を読むにつけ思うのだった。
「昔少年の頃から私は信州浅間山麓の追分村で夏を過ごした…」の前口上、そして回想はまず「油屋主人」から始まる。医学博士であり、評論家であり、作家であったという氏の鷹のような視線が(成田氏言われるところの)「知縁」の方がたに隅々まで注がれ、一話一話が夜空の星のように凛と瞬いている。それでいて厳しさばかりではなく穏やかさを感じられるのは、この冷涼な空気と雄大な風景を共有した人たちばかり(:地縁)ということなのだろうか。

★明日、FM軽井沢(77.5)昼過ぎに、番頭氏が登場する見込み。
軽井沢近辺のかた、気が向かれましたら、どうぞお耳を♪