otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

はるかなる桃の花

月曜日は鉛色の木々の合間に横川あたりから梅林が望めて車窓の景色がこれから楽しみになるねと言いつつ神保町へ向かう。今回は一泊して、火曜日は先月作った眼鏡の調節や諸雑用をしてから、まだ古書会館での待ち合わせまで時間が少しあり、思い立って上野の東京都美術館でやっている「生活と芸術―アーツ&クラフツ展」(カタカナで書くとピント来ないが"Arts & Crafts")ウイリアム・モリスから民芸までという幅広いとらえ方の展覧会があるというので、行ってみることに。
すでにあちこちで仕入れた本や雑誌をしこたま持っていたが、先頃手に入れたL・L・ビーンのローラー付のブックパックがなかなか働き者で、これを引っ張って歩き回ったが、ローラーの音もとても静かでスムーズで大助かり。(実はこれ1ドル93円のお陰で、日本で買うより相当安く手に入れたもの。)

上野駅に降り立ったのは随分と久しぶり。そのうちお花見のドンちゃん騒ぎがここで繰り広げられるはずだが、今はまだ殺風景なだだっ広い公園の中をぬけて奥の東京都美術館へ行く。会期の真ん中あたりでしかも平日でもあり混んではいなかったが、若い人から年配まで、しかも男女ともにいるというのは展覧会にしては珍しいように思う。
昨年初夏に御代田のメルシャン美術館でモリスの展覧会があり行ったが、ちょっと物足りなかった。今回はイギリスのモリスから始まり、ウイーン工房、北欧から日本の柳宗悦らの民芸運動までカバーされていて盛りだくさんだったが、濃度がちょっと薄い気もした。モリスの描く「葉」がどれも好きなのだが、壁紙はあまりなかった。モリスは素材を身の回りの自然から取っている。
意気込んで入ったが「役に立たないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない。」という入り口のモリスの言葉をみて、早くも帰りたくなった。生活の中の芸術を考えるということなんだろうが。わが生活はどうもそこから程遠く、不況の世の中でも心の中も貧しくなってはいけないなと少しだけ自戒すると同時に、美意識を育てるにはやはりまず屋外の景観が重視されるべきだとも思いなおし、個人の生活よりも、町並みや景観を整えることで、人の美意識は育っていくだろうな、その逆も真なり。公共の施設を綺麗にすることの大事さを思ったりした。
それにしても都の施設で入場料大人:1500円は高いのではないかなぁ?

夕方に向けて天気が悪くなるという予報がでており、日中も曇天で寒く暗かったが、町行く人が手に花のついた桃の枝を携えているのを数人見かけた。会社や自宅に桃の一枝を飾ろうというのだろうか?一枝でも春を感じることの出来る桃色の花。今日は桃の節句。花の色といい、枝ぶりといい梅にも桜にもない温もりがこの花にはあるように思う。

お茶を飲んで時間を調整していたら、ふと見ると雨が降ってきたようなので、急いで腰を上げて御茶ノ水へ行き、古書会館で番頭N氏の車と合流して昨日のせりで買えた本を積み込む。沢山買えすぎても支払いに困るが、空手で帰るわけにも行かず、そういう点では今回は入札の半分ほどを入手できたので良しとしよう。面白いものとしては一束すべて「タイル」関連という山が買えた。ほとんど洋書。これは是非欲しかったので嬉しい。個人の蒐集だと思われる。
雨がだんだん激しくなる中、東京を離れる。関越道入り口の新座では道路規制は表示されていなかったが、次第に雨は霙交じりになり、ついに白くなる。そしてまだ路肩が白くもなっていないうちに「横川SA〜東部・湯の丸ICまでチェーン規制」の文字が電光掲示板に出た。横川SA入り口で強制的にパーキングに誘導され、チェーンつけた車から本線に戻ってもいいという規制に以前遭遇したことがある。当時は都会に住んでいたのでノーマルタイヤであったので、チェーンを巻くしかなかった。が、こういう場合、滑り止めタイヤ:冬用タイヤならチェーン装着は免除されるのかどうかがわからないが、横川SAまで行くともう一般道には降りられない。さりとてタイヤチェーンはつけたくない。チェーンを久しくつけてないので、億劫だし、着けたら相当減速して走らないとチェーンが切れる。ついに決断して「松井田・妙義IC」で国道へ下りた。
見る見るうちにあたりの景色は白く染まりはじめ、碓氷峠の上り坂にさしかかると路面も白くなり、そこへワイパーが凍って上手く作動しない。長野ナンバーの車はへっちゃらでスピードを上げて上っていく。反対車線をチェーンの音がするトラックが雪煙を上げて下りてくる。緊張しながらの峠越え。上り終えて軽井沢のプリンス通りの信号までたどりつき、ここからは平坦なのでようやく安堵した。あと一時間後だったら、もう上ってこられなかった。ギリギリセーフであった。
行きに見た梅の花も寒さに凍えているだろう。ましてや桃など程遠い、高原の桃の節句白い夜