otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

一時間天然ドラマ

otobokecat2009-03-17


朝から雨。天からまっすぐ大粒雨がばしばしと下りてくる。珍しく北の窓がびしょびしょに濡れている。気温は零度。雪に変るのも時間の問題だ、と書くうちに、スローモーションを見ているように雨粒が白い破線となって見えてくる。大雨が雪に変り、激しく雪が降り始める。そんな中、宅急便のお兄さんが頭に雪をのせて書類を届けてくれる。プロパンやサンが傘を差してメーターチェックに来る。
ふとパソコンから目を上げると、もう雨に戻っている。白くなったばかりの地面が雨粒でどんどん消されていく。
霧が次第に晴れて、白い曇り空に青い斑模様が入ってきた。
雨音よりも鳥の声が大きくなったとおもったら、室内にさっと陽が入ってきた。
見あげるといつの間にか空は青いところの方が多くなっているではないか。
そして窓の水玉だけが残ったのが午前十時。

昨日、番頭氏が松本の市へ出かけたので、私は郵便局まで歩いていった。行きはすたすた下り下りばかりの30分。一日一回の本局の回収時間になんとか間に合って一安心。こういうところがここは田舎である。
帰りはいつもと違う道を通り、あっちへふらふら、こっちへふらふらの、上りばかりの一時間。
途中「浅間モーターロッジ」が今でも廃墟となって林の中に残っているのを見つけて驚愕した。日頃国道からはほとんど見えないが、取り壊されずにまだそこにあったのだ。詳しいことはわからないが、昭和40年代には「浅間モーターロッジ」といえばこのあたりのもっともハイカラな場所の象徴だった。コンクリートで作られた蝸牛状の建物は、当時としては実に斬新で、国道沿いだが、少し奥まって木立の中に広い駐車場を持ち、建物に入るとゆったりしたダイニングルームがあった。宿泊スペースは道路と反対の南側に向いていた。
ここはドライブインでもホテルでも旅館でもない独特の雰囲気を持った場所で、高級だったはずのに、麦藁帽にゴムぞうりといったカジュアルな服装でも来られた。それでいて内部はレストランというより、ホテルのダイニングという風情で、ひと夏に一回連れてきてもらうのが楽しみであった。当時は追分宿には飲食店は一軒もなかった。
一度大学の同窓会に見えた妊婦姿の美智子様【現皇后様】と入り口ですれ違ったことがあった。つばの広い大きな白い帽子を被られていたことを良く覚えている。南側の庭に佇んで、遠い夏の日のことなどを思った。食器が触れ合う音が聞こえて来るような錯覚さえ覚えた。ちょっと待てよ、40年も昔ではなく比較的最近、この空気をすったことがある。そうだ、水村美苗の『本格小説』を読んだときに感じたんだ。
立ち入り禁止の札を見つけて我に返って、立ち去った。またひとりで、今度は真夏の太陽が照るときに来ようと思う。立ちくらみがするかもしれないけれど。