otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

猫の耳にお経

私の先祖はかつて追分にいましたが、今はもう縁者は誰も住んでいません。
強いて言えば我が家は亀田屋という雑貨店とは一番縁があったことになります。
店屋があまり無い追分では、ここはまさしくワンダーランドでした。小遣いを握り締めてこの店に通い、おもちゃの指輪の選定にずいぶん迷いましたし、アイスクリームボックスを覗くのも好きでした。どんぐりガムや、ビーズの詰め合わせ、花火もよく買ったなぁ。軽井沢の絵葉書もここで買いました。駄菓子から、文具から、蜂を取るときにつかう煙の出るやつとか、文具や店で使う領収書や文具も亀田屋でいつも購入していました。
財布を落としてしまって、お金を借りたこともありましたっけ。
極めつけは猫の縁です。我が家のベル公は亀田屋の今はなきミルクという純白の母猫から生まれた4匹の子猫のうちの一匹です。雉トラの尻尾の長い雌猫が生まれたら欲しいな・・・と度々つぶやいていたら、13年前の秋、「雉トラの尻尾の長い雌猫」が誕生し、早速連絡が入りました。もう後には引けず、動物を飼ってはいけないアパートにもかかわらず、ベル公は我が家の一員になったのでした。
亀田屋に猫がいないことは一時も無かったように思います。現在はクロネコ:ココアと三毛猫:カフェの二匹。今日坊さんがお経を上げている間、二匹は外のたたきのところで並んで座っていましたが、私にはあたかもお経を聞いているように見えましたよ。
「早く追分においでよ」と美保ちゃんがいうので、本当にここに移り住んでしまいました。店のガラス戸を開けるとあなたはいつも左奥の帳場に座り込んで、時には煙草をくわえ、また猫をなでながら、新参者の私にいろいろ追分宿のことを教えてくれましたね。
4月19日の堀多恵子さんのお葬式に行くのを誘ってくれたのは美保さんでした。キリスト式の葬式の間、ふたりでずっと後ろで立って参列していました。多恵子さんはご長寿〔96歳〕だったため参列者の年齢も高く、50代の我々は参列者の中では十分若く、慣れないキリスト教の葬式に戸惑いながらも末席に佇んでいたのでした。
あの日からわずか7ヶ月。あなたは焼香台の向こうで横たわっています。夏が暑くてかなわない、食が進まないとこぼしていたけれど、今年のくそ暑い夏をへっちゃらに過ごせていた人などいませんでした。こんなことになるなら、もっとおせっかいにいろいろ口を出せばよかったと後悔しています。
今年は「喪中」の葉書の到着が多いのに驚いています。ちょうど親が80代以上になる年頃でもあります。でも50代で逝ってしまうのはフライングです!
通夜の席では22歳の息子さんが美保さんに生き写しでした。娘さんは何時の日にか店のシャッターを上げたいと言っていました。そのときは応援したいと思います。
美保さん、どうぞ安らかにお休み下さい。

◆告別式は明日午後一時からです。