静かな土地
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追分村にはたくさんの文化人の別荘がありますが、別荘というちょっと特別な響きとは裏腹に、文人のそれは実に簡素なものが多く、山の家は知的空間の確保というか、書斎といった存在であると私は思っています。
軽井沢が碓氷峠を登ってこなくては辿り着けなかった時代に、軽井沢の中、とりわけここ追分にはそんな山小屋があり、そこにこもってものを書く人は沢山いました。大学の保養所が多くあったことも関係あるかもしれません。本を読んだり、文章を書くのにこれほど適した場所はそうはないのではないでしょうか。
児童文学者石井桃子の山荘も追分油やの裏手にありました。いえ、石井桃子の滞在をサポートした西村さんによって、今でもその家はそこにあります。
追分について石井桃子が記したものは多くないと思いますが、それこそが「静かな土地」ならではのこと。
今日は盆踊りの初日でした。浅間神社から音頭や太鼓の音が聞こえていましたが、それも止んだ夜10時過ぎ、あれほど車が行き来していた林道を走る車も今はなく、今夜は風もなくて、耳を澄ますとただ虫の音が窓の外から聞えるばかりです。パソコンをパツパツトンと私が叩く音がうるさいくらい。
一年で一番追分に滞在する人の数が多い時期ですが、遠くにいつもは見えない灯りがぽつんとついているだけで、すでにあたりに人の気配は無くなっています。
窓から流れてくる夜気を感じながら、雑誌に頼まれた記事を仕上げました。私も床に入るとします。
暑くも寒くもない気温、騒音もなく、夜のとばりの中でまばゆい光も色もなく、追分は本当に静かな土地です。