otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

あめゆじゅ

本屋を始めた時からそこにあり、ずっとうごきがある棚は宮沢賢治の棚です。
一番奥まったところにあって、本屋を彷徨しないと行きつかない角にあるのに。
静かにそこに収まっているのですが、時折、まとめてごそっと買っていかれる方がおられます。
現在はだいぶ隙間ができてしまいました。また補充しておかなくては。

昨夜、蒲団の中で最後に聞いたのは、雨音だったように記憶しています。
ですから、翌朝、きっと深く積もっているのではないだろうと思い、朝、カーテンをめくると、やはり薄く白いもので褐色の落ち葉は覆われていました。
外に出てみると、まだ曇天からは雨が落ちてきています。
庇からは雨だれも落ちてきています。落ちた水は落ち葉に阻まれ、地面にすぐにしみこめません。
地面はぐしゃぐしゃの霙状態です。
雨だか、枝からの水滴だかが、頭に落ちてきました。凄く冷たい!!
風も少し出てきました。やがて氷雨は終わりそうです。
10歩ほど進んで、写真だけ撮って、これはいかんと退散しました。

「永訣の朝」は11月の詩です。
トシが最後に賢治にせがんだ「あめゆじゅ」は、こういうものだったのかもしれないと、ふと思いました。

厳しい冬に向かって坂を下り始める11月の「あめゆじゅ」は、絶望的な象徴とも思えるけれど。
もう少しすると、ここでは屋外で「水」は存在できなくなります。
「あめゆじゅ」は「水」という形での最後でもあります。

賢治の「雨にも負けず…」が書かれたのもまた11月だということです。
この長〜い賢治の理想を掲げる詩の中で、「丈夫な体を」という一言が耳に残ります。
自然の中で生きた賢治にとって、11月は思うところの多い時だったのでしょう。
圧倒的な自然の力の前では、丈夫でないと、生き物は春を迎えることはできません。

あまり好きになれない霙雨ですが、落ち葉をたたく雨音に耳を澄まし、次に雨音が聞こえるのは、春先だろうかと思いながら、いつになく聞き入っています。

空にうっすらと青みがかかってきて、少し陽の光が見えてきました。地面から白が消えていきます。