otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

七月の終わりに

otobokecat2008-07-31

朝早めに目が覚めたので、枕元においてある本をめくる。
雲の厚い朝らしくレースのカーテンの向こうは静かで、山鳩の声がする。
『玩草亭百花譜・下』のおしまいの貞子夫人のあとがきを読む。スケッチを始めたいきさつ、スケッチに取り組む福永武彦の様子が記されていて興味深い。だんだん牧野植物図鑑なども参考に、学名まで調べて記入することに時間を割いていくようになったという。
最晩年、特に6月30日以降のスケッチは病床で描かれ、入院先に貞子夫人が成城の自宅の庭から運びこんだ草花や、お見舞いの花などを描いている。もうそれ以前のように学名が記されていない。花に添えた文章も体調の記録といったものも多くなる。

点滴はひとまづ今日でおしまひ

今日も輸血

下巻85頁のタチアオイが草木帖の絶筆である。28/7とあるが、これは1979年〔昭和54年〕7月28日のことで、翌月の13日に亡くなった。
最後のタチアオイは追分の亀田屋の原田キクヨおばあさんがお見舞いに行く人に言付けた花だったという。野の花ではなかったが、紛れもない信濃追分に咲いていた花だった。

今日は午前中雨
その間に輸血す
こし熱が出て胃
がつっぱるスケッ
チの間だけ
はそれを忘
れて
ゐる

立葵に添えられたこの一文が、没後、夫人にこの本を出版することの後押しをしたかもしれない。


床からでて、寝巻きのまま玄関を開けて家の周りを一周り、と思ったら、草むらからオオムラサキ♂が飛び立ったのには驚いた。知らずにわたしが近くまで行ったので逃げたのだ。すぐ近くの野草の上に留ったのを確認して、カメラを取りに家に戻った。場所は少し動いたが、まだいてくれた。非常に用心深く、近づくとひらりと逃げる。なんとか一枚でも写真に撮りたいと焦った。
とても大きく、羽の色が図鑑で見たままで、すごく色鮮やかな紫色、ひどく感激した。そうかこれが国蝶なのか。本物を屋外で見たのは初めて。花の蜜は好みではなくコナラの樹液を吸うのだとか。コナラならこのあたりにはいくらでもある。また来てくれるだろうか?


(しかし、寝巻きのままこんなことをやっていられるのも、ここならではのことであった。)