otobokecat’s blog

たまに本を読む猫

山間の花、行間の花

月火と東京行。行きは窓外にずっとくぎ付けで歓声のあげ通しだった。朝の光の中で若緑の木の葉がきらきらとまぶしい。様々な緑の陰影だけでも十分楽しめた。妙義山を下る途中では、木にからみついた藤と朴の藤紫の花がまさに見ごろ。五月の半ばといえば藤色の花の季節―信越本線碓氷峠を走っていた頃にみた、トンネルとトンネルの隙間に垣間見た山間の藤の花が見事だったことなどをふと思い出していた。山の藤の花は藤棚の藤とは違う野生的な美しさがある。黄緑色に藤色がよく映える。残念ながら写真は上手く撮れなかった。
もう少し下り、富岡あたりでは今度はエンジュが見ごろだった。マメ科のエンジュはとても丈夫な木で何処ででも育つ。高速道路際や川沿いに乳色の木々の波が続く。車からではわからないが、おそらくあたりには甘い匂いが充満して、蜂がブンブン飛び回っているんだろうなと思われた。
北佐久地方では六月にならないとエンジュの花は見られない。エンジュつまりニセアカシアの花のことを後藤明生がエッセイに書いていたなと思い『笑坂』をだしてめくってみる。『屋根』かなと思ったが、アカシアという言葉は出てくるが花が終わった夏の話だった。探していた箇所は、その次の『不思議な水曜日』の中だった。

わたしはウイスキーに未練を残しつつ、仕事机から立ちあがった。ガラス戸を開けて濡れ縁に出る。庭ではアカシアが満開だった。わが家の屋根は、七、八本のアカシアに覆われている。しかし、その白い花を見ることができたのは、今年はじめてだった。私がこの小さな家を手に入れたのは三年前であったが、六月をこの家で過ごすのははじめてだったからだ。     ―『不思議な水曜日』後藤明生 より

おそらく「アカシア」ではなくて「ニセアカシア」であると思うが、土地がやせている信濃追分ではごく普通に見られる初夏の花である。私は成人になるまで六月に追分を訪れたことはなく、ニセアカシアの花は実物を見るより前に後藤明生の随筆の中で出会った。実物を見る前に書物の中で会った花は結構ある。『三四郎』のヘリオトロープもその一つだし、宮尾登美子の『天涯の花』のレンゲショウマもそうだ。

東京から戻ったら、庭のフデリンドウ、店の裏のヤマブキ、ムラサキケマンの花盛りは過ぎていた。ほんとうに花の命は短くて。
これからは白い花の季節が始まる。ドウダンツツジがすでに花盛り。用水の近くのオドリコソウの蕾は開いただろうか?ゴミシの小さな花やウツギ、オトコヨゾメもそろそろ。
そしてここではニセアカシアはまだまだ先だ。ハルゼミの声もそのうち聞こえて来るだろう。その六月には再び本箱を抱えて外売りすることに。近く告知の予定、乞うご期待。
■店先のリキュウバイ
★来る週末は、谷口高司さんをお迎えして追分もバードウイーク。たまご式鳥絵塾のお題は「イカル」です。見たことの無い人、絵を描いたことの無い人でも大丈夫!画材はお貸しします。気軽にどうぞ。
夜は練馬区少年の家:ヴェルデ軽井沢にて手水支配人の星見会19:30より。そして翌日日曜朝は、恒例追分散歩です。予報はあいにくいまひとつですが、昨年も実は雨天実行でしたがキビタキに会えました。星空が見えなくても手水さんの果てしない宇宙の話は必見ならぬ必聞なり。どうぞふるってご参加ください。集合場所等はHPのイベント欄を参照ください。

■チャレンジ

Shot by Both Sides: A Novel

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挾み撃ち (講談社文芸文庫)

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